2016年12月31日

誘惑の追憶cinema1


彼が急にいなくなって

ホッとしたような

ぽっかり心に穴が空いたような

そんな不思議な感情を覚えていた。


そんなある日、用事で出かけた先で

久しぶりに通りかかった

小さな映画館。


座席数は30席ちょっとで

上映されている映画は昔の名作が中心。


映画館のポスターに

昔ファンだった俳優の名前を見つけると

懐かしさで胸が一杯になり

学生の頃に戻った気持ちになった。


入場料を払って

重い防音ドアを押し開けると

エンドロールが流れ始めた所だった。

客は疎らに席を取っていた。


5席、横一列空いている席を見つけ

そこに腰をかがめながら

壁から二つ目の席まで移動した。

壁側に持っていた荷物を置くと

肉厚の座席に身を沈めた。


エンドロールが終わり

場内の明かりが付けられると

10分間の休憩時間がはいるとの

アナウンスが流れた。


何人かの客が座席を離れたり

また新しく席に座ったりしている。


時間を潰すために

バッグからスマートフォンを取り出し

眺めていると

不意に声がかけられ顔を上げた。


「ここ、空いてますか?」


還暦を過ぎているだろうか

スーツ姿でロマンスグレーの男性が

声をかけてきた。


「お連れがいらっしゃいますか?」


「いえ、どうぞ、空いていますので。」


そう返事をすると、彼は私の横に座った。

空いている席は他にも

たくさんあるというのに。















posted by 桃花 at 07:42| Comment(0) | 誘惑の追憶cinema